経営者保証と相続
特に中小企業において、経営者自身が会社の債務の連帯保証人となっていることがよくあります。
このような状況で経営者が亡くなってしまった場合、連帯保証債務も相続されることになります。
会社の経営状況が良好であればともかく、会社の経営状態が悪ければ、相続人が連帯保証人として返済を請求されるおそれがあります。
相続放棄や限定承認によって負債を免れることは可能ですが、他の資産の相続にしわ寄せが出ます。
また、直ちに保証債務の履行を請求されないとしても、相続人が後継者として故人から会社経営を引き継ぐ場合、後継者個人が新しく連帯保証人となることを求められるでしょう。
結局のところ、債務の履行を求められるリスクは残ります。
経営者保証ガイドラインを活用した対処
1.初めに
中小企業庁は、経営者保証の弊害を解消するために「経営者保証に関するガイドライン」を定めています。
このガイドラインは経営者の相続について直接言及するものではありませんが、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を中心とする研究会から、事業承継の場合に関する同ガイドラインの特則が公表されています。
これらの考え方に基づいて、債権者に対して後継者を保証人として求めないように交渉することが考えられます。
2.経営者保証ガイドライン及び同特則の内容
特則では、「後継者に対し経営者保証を求めることは事業承継の阻害要因になり得る」として、後継者に保証を求めることに対して慎重な判断を求めています。
その判断の要素としては、ガイドラインにおいて次の内容が掲げられています。
①法人と経営者との関係の明確な区分・分離
会社と経営者個人の財産が別物であれば、会社の負債を経営者個人の負債と同視できず、経営者に負わせる理由が乏しくなるという理屈です。
会社と経営者の財産関係を明確に整理するだけでなく、会社と経営者の間の資金のやり取り(役員報酬や配当など)を社会通念上適切な範囲に収める体制の整備するなどの措置が求められます。
こうした措置が適切だと債権者から理解してもらうためには、弁護士等の外部専門家による指導・検証を経たうえで、報告してもらうことが有効です。
②財務基盤の強化
経営者からの回収を図らなくても足りるだけの返済能力があれば、経営者が債務を負担する必要はなくなります。
会社の収益力を強化して自力での返済を図るほかに、保証人以外の担保を提供することが考えられます。
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
透明性のある経営であれば、見られていることを意識した経営になるため、放漫経営による破綻のリスクが減ります。
そのため、経営者に保証を求めなくても債権者が安心できるようになります。
経営の透明性を高めるには、資産負債の状況、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等について、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することが必要になってきます。
この信頼性の開示情報を用意するためには、弁護士等の外部専門家によって情報の検証を行うことが有効です。
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